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高い社員幸福度で業績アップ - 今話題のチーフ・ハッピネス・オフィサーとは

顧客満足度を上げたいなら、まずは従業員の幸せから改善すべきだ。」今、サンフランシスコ・ベイエリアを中心として企業文化への変化が起きている。『The Happiness Advantage』の中で著者のショーン・エイカーは自身の調査を通じ、幸福度と結果の因果関係について、「結果が良いから幸福になるのではなく、幸福になれば結果が良くなる」と示している。

これが企業の場合、社員の幸福度が直接業績に比例する事に他ならない。

それに伴い、コーポレートカルチャー(企業文化)の改善がビジネスに大きく影響していることが近年注目されている。過去の記事でも掲載したように、企業文化と従業員の心理の関係性は非常に強く、企業文化の改善はビジネスの改善といっても過言ではない。その中でも社員の幸福度は特に重視すべきポイントとして見られている。

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従業員の幸福をデザインするCHO

その企業文化改善を行う立役者として社員の幸福度を重視する役職がCHO(チーフ・ハッピネス・オフィサー)である。近年様々な企業で導入されており、同時に彼らの仕事内容についての注目度も高まっている。どのような職種でもクリエティブな結果を求められる時代だからこそ、従業員の幸せを司るCHOの役割は今後も重要になっていくだろう。この記事でその役割について一度まとめてみようと思う。

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チーフ・ハッピネス・オフィサー(CHO)とは

一文で説明すると、CHOとは企業文化の中でも特に改善の余地が大きいとされる社員の幸福度に着目し、その向上に努める役職である。企業によっては社員ではなく顧客に対してヒアリングを行い直接的に顧客満足度を上げる役職として存在するところもあるが、現在は従業員を対象とした幸福度調査・向上のほうがより知られている。

従業員の幸福度が高いと顧客の満足度も高くなるという研究結果も出ており、どちらにしても顧客に還元されるような循環機能が期待されている。

CHOに期待されている役割は、ある程度構築された企業文化をもつ企業においてその改善を目的にしたコンサルタント的立場である。わざわざ社員幸福度を上げるための専属のスタッフが必要なのか、人事部でまかなえるのではなか、との考えもあるが、グーグルのように5万人の社員の幸福度を調べなければならないとなると、専門の役職が必要なのも理解できる。

幸福度や幸福感というものはその実態の無さから、結果を図るためには科学的なアプローチが用いられ、心理学、社会学、神経学、行動科学といった知識を総合して調べられる。特に心理学では幸福度合を数値化、比較できるようにOxford Happiness Inventory、Subjective Happiness Scale、Panas Scaleといったテストがすでに作られ利用されている。

CHOたちはこれらの科学的アプローチと自身の経験を駆使して社員の現状把握を行い、問題を洗い出して彼らの日々の習慣から直していくことでより幸せな生活を提供をすることが主な責務となる。

鶏が先か、卵が先か

幸福度の高い従業員はパフォーマンスも上がると言われているが、それはパフォーマンスの高さが認められたがゆえに幸せを感じているだけではないのか。多くのCHOに共通する考えは「幸福とは必ずしもビジネスマンとして成功したから感じられるものではない」ということ。

幸せというものは「それ自体を掴みに行く姿勢づくりをすることで初めて得られるものだ」とCHOたちは口を揃えて述べている。そのため、彼らの仕事はビジネスで成功する方法ではなく、直接的にハッピーになれる方法をチームに教え込むことなのである。

高い幸福度がもたらす影響とは?

幸福感がもたらす従業員への影響は数知れない。以下がその違いである。

生産性、セールス、クリエイティビティがそれぞれ向上する
生産性で30%、セールスで37%、クリエイティビティでは3倍も高くなる*1

病欠を使う日数が少なくなる
幸福な従業員はそうでない従業員よりも病欠を使う日数が66%減る。*2

社員の辞職率が下がる
後述するデリバリング・ハピネス社によると、CHOによるコンサルティング導入以降、社員の定着率が90%にまで上がった企業もある。*3

労災が減る
Gallupの調査で職場での事故が48%減ることがわかっている。*4

他にもよりモチベーションがあがり、仕事の愛着心が増え、よりチームワークが得意になり、より社交的になり、より他人に対してのサポートが増えるなど、幸福感がもたらすポジティブな影響が数多く存在している。

幸福感は今、新たな科学としてより活発に研究されている。「幸福になる」と一言でいうと単純ではあるが、その効果はまだまだ測り知れない。

4人のCHOが伝える、社員を幸せにする方法とは?

CHOという仕事はその役職名のユニークさから注目を浴びているものの、彼らが実際にどのようなことをし、どのような実績をあげてきたのかはまだあまり広く知られていない。実際のケーススタディをいくつかみていくことでCHOというポジションの重要性をみていきたい。

ケース1:チャディー・メン・タン(Jolly Good Fellow at Google)

Google には毎日思いやりがある

彼はもともとグーグルで検索エンジン担当として活躍していたエンジニア。企業におけるCHOの大切さを世界に広めた第一人者と言ってもいい人物である。彼が成し遂げたことはシンプルに「思いやりのある心をもつこと」の大切さを多くの社員に伝え浸透させたこと。

ポジティブ心理学の知識と宗教色を抜いたマインドフルネス瞑想を通じて、ストレス軽減、感情抑制、相手の気持ちを察することを社員に教え込み、彼らがより高いレベルでチームワークができるようなマインドセット作りを実現させた。

ポジティブ心理学とは、ネガティブな思考を避け、自身のありのままの良さを追求することでストレスのより少ない幸せな生活が送れることを目指す心理学の一種。チャディーはそれをベースに、科学的に効果があると言われているMindfulness-Based Stress Reduction (MBSR)を加えて、短い時間でも実践しやすいような「マインドフルネス・トレーニング」を完成させ、社員に提供した。今もグーグル全社員の10%にも及ぶ5,000人以上が彼のコースを受けている。

これは以前の記事 「Google、Facebook、Airbnbはどのようにしてチームビルディングを行っているのか?」でも説明した、平均社会的感受性に通ずるところがある。グーグルで科学的に「良いチーム」と判断されたチームの共通点の一つにあったのが高い平均社会的感受性。

つまり「いかに他人の気持ちを汲み取れるか」がよりパフォーマンスの高いチームを作る要素の一つになるということである。チャディーが伝える「思いやり」の大切さは社員を幸せにし、結果としてグーグルの持つ高いチームワーク力に大きく影響している。

彼にはその後、人を”Jolly Good(とても楽しい)”と思わせてくれる、という意をこめた”Jolly Good Fellow”という役職名がつけられた。また上記の彼のコースは名前そのままに”Search Inside Yourself”という本で広められ、ベストセラー化したと同時に、グーグルが最も働きやすい環境を提供する企業の一つとして世に広める役も担った。


Googleに新設されたビジター・センターでは彼がこれまでに指導した著名人との写真をみることができる。

 

ケース2:ジェン・リム(CEO/CHO at Delivering Happiness)

社員の幸福度向上には、会社のコアバリュー共有が不可欠

彼女はもともとZapposのコンサルタントであったが、2010年に同社CEOのトニー・シェイと共に「幸福の多い職場環境を提供する」ことをミッションとした企業文化コンサルティング会社Delivering Happinessを設立。

2005年に彼女が初版として執筆したZappos Culture Bookは大ヒット。Fortune 100の企業中6位まで上り詰めたZapposの経営成功の裏にある顧客満足度の高さは同社の企業文化が大きく影響しているとして多くの注目を得た。

オンラインでの靴の小売業をメインとするZapposは、ライバル関係にあったAmazonを”High-tech”企業と捉え、その差別化を図る形で自社を”High-touch human approach”とし、どこよりも温かみのあるカスタマーサービスの提供を心がけた経緯がある。

実際に消費者からはサービスの質の高さが大好評となり、同社の売上はトニーがCEOに就任した2000年からAmazonに買収される2009年で500%以上増となった。

良いカスタマー・サービスを提供できるのは「最高のカスタマーエクスペリエンスを提供する」という同社のビジョンに共感し、なおかつ従業員自身が幸せで人助けをしたいと思っていなければできないことだ、とトニーは語っている。

 

そのZapposを裏で支えたジェンは現在自分の立ち上げた会社で、ハッピネスという一見実感の湧かないものをいかに現実化するか、というところに焦点を当てている。その一例がHappiness Business Indexと呼ばれるDelivering Happinessが開発した幸福度を指し示す指数である。

これは統計学者ニック・マークスが作り上げたHappy Planet Indelx(地球幸福度指数)という指標を職場環境に応用できるように変えたもの。この指数をもって現段階での従業員の幸福度を確かめ、不幸と感じているポイントを特定し、改善を行う。

ニック曰く、国の成功を「国の生産性」ではなく、「国民の幸福度」と「地球への負担の少なさ」で見ていくことが必要だという。彼の指標を取り入れたジェンは、企業の成功も社員の業績ではなく、まず幸福度そのものでみていくべきだと語っている。

ではジェンが考える幸福になれる方法とは何だろうか?「会社のバリューと合うような、顧客一番と考える社員を採る」というトニー同様、彼女も幸せになるということは明確な目的を持って仕事をしている状態だと説明する。そうした高い意識レベルでの目的保持は心理学用語でフローと呼ばれる状態、つまり「時間の経過を忘れて物事に没頭する状態」につながることだというのである。

「会社のコアバリューが社員としっかり共有されれば、彼らは仕事に意味を見出し、幸せをより感じて、月曜日にオフィスに来るのが待ち遠しいと感じるようになる。」実際にZapposが共通バリューを持てないと判断した社員を報酬を払ってまで解雇する姿勢も、社員全員にとっての幸せな職場を追求していることの表れなのだろう。

ジェン曰く、現実的にみてビジョンやバリューを全社員と共有できている企業は未だに非常に少なく、「実に80%以上の社員が理解していない」という。会社の中核となるバリューをいかに社員に実経験として落とし込むかがジェン、そしてDelivering Happinessのコンサルティングの仕事なのだ。

ケース3:アレクサンダー・ケルルフ(CHO at Woohoo)

幸せとはなれるものではなく、自ら掴みにいくもの

彼も上記のジェン・リムと同じように、より幸せな職場環境の提供を目指すコンサルティンング会社Woohooを設立。しかし、彼自身はもともと南デンマーク大学でコンピューター・サイエンスの修士号を取得し、IT会社のEnterprise Systemsの共同ファウンダーの経験も持つバリバリのエンジニア 。

Woohooはコペンハーゲンにある会社だが、これまでにMicrosoft、IBM、McDonald、IKEAといった数多くの企業を国境を越えてサポートしており、彼の著書”Happy work is 9 to 5″も数ある幸福度に関する本の中でも高い評価を得ている。

彼に関しては2010年にコペンハーゲンで開かれた彼のTEDx Talkから紹介したい。デンマークは国連の世界幸福度報告書において世界で最も幸福度の高い国とされているが、実は幸福なのではなく満足度が高いということのようだ。というのも、長期的にみれば母国デンマークの暮らしには満足しているものの、日々の生活で幸せに感じる瞬間は決して多いわけではないという。職場環境の幸福度も同じことで、仕事の満足度と幸福度はまったく別物である、と彼は語る。

彼も講演の中で、社員が幸せになることがいかに会社としてメリットなのかを力説。営業成績がよくなり、より積極的に人助けやチームプレイをするようになり、より物事の吸収も早くなる。1日の中で睡眠の次に時間を費やすのが仕事であり、それだけ時間をかけてこなすことこそ自分をより幸せにしてくれるものであるほうがよい、という彼の言葉は説明するまでもない。

ビデオの最後に彼がオーディエンスと行った挨拶のエクササイズがある。これは挨拶一つをとってみても自分がより気持ちよくなり、同時に相手の気分をよくすることができるとわかる良い例である。Zapposのトニーも言うように、良いカスタマーサービスもよりハッピーな従業員から生まれるというのはこのことではないだろうか。

  • レベル1:うつむきながら唸る(「おはよう」とも聞き取れない程度での挨拶)
  • レベル2:うつむきながら「おはよう」と挨拶
  • レベル3:相手の目をみて「おはよう」と挨拶
  • レベル4:相手の目をみて「おはよう」と挨拶し、さらに一言添える
  • レベル5:相手の目をみて「おはよう」と挨拶し、握手やハグなどのボディタッチもいれてみる

幸せとは幸せになる行動を自ら起こして掴みにいくこと。実際に会社の全体ミーティングや朝礼で試してみた方がわかりやすいのかもしれない。

 

ケース4:ショーン・エイカー(CEO at Good Think)

他人に与えることで人は幸せになる

ショーンはハーバードの研究員として12年間ポジティブ心理学の分野に携わり、主に日々の習慣と幸福度の関連性について研究を行ってきた。そこから幸せになることと成功の関係について多くのイベントで講演、フォーチュン100の企業の他にNBAやNFL等のプロスポーツ組織や、ペンタゴンやホワイトハウスでもその重要性を話してきた経験をもつ。

彼が今までサポートしてきた多くの企業のうちの一つに、税務やアドバイザリーサービスを提供するKPMGがある。2008年12月に幸福度が向上する習慣付けを特定のグループで実践してもらい、実践しなかったチームとの比較を4ヶ月後に行った。その結果、実験で調査されたほぼすべての項目で明らかな向上を示し、特に人生幸福度係数では35点満点のスケールの中で、22.96から27.23までポイントを上げた。

ショーンが毎日どれか一つ実践するように伝えたは次の5つの習慣。

  • 感謝していることを3つ書き止めること
  • 彼らが所属しているソーシャル・サポート・ネットワークの誰かにポジティブメッセージを書くこと
  • デスクで2分間瞑想する時間を作ること
  • 10分間エクササイズする時間を作ること
  • その日の中で最も意味深かった経験を日記に書く時間を2分設けること

また、彼は2011年にハーバードの学生を対象に彼らの幸福度と社会的支援の関係性を研究。もともとは社会的支援を受けている生徒ほど幸福度も高いという仮定のもと始めた研究だったが、より興味深かったのは幸福度が高い生徒ほどより社会的支援を行っている、という部分であった。

社会的支援とは、この学生でいえば宿題で困っている他の学生を助けることであり、職場となれば他の社員をランチに誘ったり、一緒にオフィスで簡単なアクティビティを実践したり、といったようなことを指す。実際にこのような社員は他の社員よりも40%昇進しやすいという結果もでている。

その他いくつかの文献でも人に何かを与えたり手助けしたりすることによって私たちの幸福度が上がることは立証されている。人の気持ちにセンシティブになって行動することは結果として自分に返ってくるものなのだ。

まとめ

幸福度をあげるというのは、企業文化を整えて会社全体で行うのはもちろんではあるが、それよりも従業員一人ひとりの日々の習慣付けから変えていくことでより効果を得やすいことがわかった。逆にいえば、そこまで企業文化全体を大きく改善しなくてももっと身近なところでの変化で対応可能であるということ。

的確な行動を少し取り入れるだけで幸せになり、業績も上がる。これは企業の成長にとってスイートスポットのように感じる。当社btraxが提供する「イノベーションブースター」のサービスを通じ、新規事業開発、人材育成だけでなく、アメリカ西海岸の企業カルチャーから学ぶ、イノベーションを生み出す企業文化づくりに関してのワークショップも提供している。

幸福とはどうしても感覚的なものであるがゆえに、以前として得体の知れないものとして捉えられがちだ。しかし、こうして研究が進みCHOがより需要のある役職になってきていることを考えると、今こそ取り組まねばならない問題のように感じる。幸福を意図的にもたらす、企業文化改善はこれからも興味深いトピックになりそうだ。

<参考文献>

  • *1 Lyubomirsky, Sonja; King, Laura; Diener, Ed The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success? <http://www.apa.org/pubs/journals/releases/bul-1316803.pdf>
  • *2 http://www.forbes.com/2010/08/13/happiest-occupations-workplace-productivity-how-to-get-a-promotion-morale-forbes-woman-careers-happiness.html
  • *3 http://observer.com/2014/02/inside-bs-tech-jobs-what-a-chief-happiness-officer-actually-does-for-a-living/
  • *4 http://www.gallup.com/businessjournal/163130/employee-engagement-drives-growth.aspx
  • http://www.forbes.com/sites/martinzwilling/2014/12/02/how-to-squeeze-productivity-from-employee-happiness/#69ee79ab1de5
  • https://home.ubalt.edu/tmitch/642/Articles%20syllabus/Hay%20assoc%20engaged_performance_120401.pdf
  • http://www.forbes.com/2010/08/13/happiest-occupations-workplace-productivity-how-to-get-a-promotion-morale-forbes-woman-careers-happiness.html
  • http://deliveringhappiness.com/services/the-happiness-at-work-survey/
  • http://bigthink.com/the-voice-of-big-think/zappos-tony-hsieh-happiness-and-higher-purpose-at-work
  • https://hbr.org/2012/01/positive-intelligence
  • https://www.fastcompany.com/3000591/how-tony-hsieh-pivoted-zappos-12-billion-amazon-acquisition
  • http://www.cultureuniversity.com/wp-content/uploads/2014/05/Jenn-Lim-Interview-Transcript.pdf
  • http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10902-011-9267-5

筆者:Kazumasa Ikoma/Marketing Associate


◆本記事はfreshtrax (運営:btrax)からの提供記事です。(元記事公開日:2017年2月19日)

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