MENTAL

コーチングの世界で注目の「モデリング」とは?

人の成長を支援しようとするとき、成長にも段階があることと、その段階によって必要なことがあるということを知っているということは大切です。ティーチングからコーチングに移行させるときに、知っておくべき必要なこととは何でしょうか?

 

新人教育を任されたら


新入社員に対しては、社会的マナーから、社会人としての心構えなど、非常に基本的なことから覚えてもらう必要があります。業務においても、一から覚えなくてはいけないことは山ほどあり、早く一人前になってもらうためには相当な投資が必要です。

そのため、最初のうちは教えること (ティーチング) が多くなり、徐々に考えて行動することを促すスタイル (コーチング)にしていくのが、良い流れです。

社会人5年目のNさんは、同じ課に所尾するIさんの教育を任されていました。Iさんの1年目は、お世辞にも素晴らしいとは言えないものでした。

しかし、非常に哀面目な性格であるNさんは、「Iさんを一人前に育てる」というミッションに対して、地道に取り組みました。IさんもNさんの愛情溢れる指導に、日々社会人としての様々な”目覚め”を経験していきました。

その甲斐あって、2年目を迎えたIさんは、社会人としての基礎をしっかりと身に付けた存在となっていました。

 

ティーチングからモデリングへ


N さんは、Iさんがさらに一人前に成長してくれるために、自分に何ができるかを考えていました。
企業研修に参加したNさんは、講師に休憩時間中そのことを相談してみました。
そして、講師からアドバイスされたのが「モデリング」というものでした。

その後Nさんは、Iさんとこんな会話をしたそうです。

Nさん 「I君の2年目の課題は何だと思う? 」
Iさん「そうですね。お得意さんにもっと深く突っ込んでいきたいですね」
Nさん 「そのために大切なことは?」
Iさん「知識やスキル的なこともありますが、その前に気合いですね」
Nさん「と言うと?」
Iさん「Nさんと一緒に訪問しているときはいいのですが、1人だとやはり少しビビッてしまうことがあるんです」
Nさん 「そうなんだ」
Iさん「はい。これを何とかすれば、さらに一歩進めるかと…」
Nさん「ところでI君、尊敬する人とか、憧れる人とかいるの?」
Iさん「坂本龍馬が大好きです」
Nさん「どんなところが?」
Iさん「肝っ玉の太さ。薩長同盟のシーンなんか最高です。」
N さん「それならこれからキミは、 ウチの課の坂本龍馬だ。坂本龍馬がこれからの1君のモデルだ」
Iさん 「モデル?」
Nさん「そう、モデリングと言って、まるでその人になったように振る舞っていると、どんどんそのモデルの感じに近づいていくんだよ」
Iさん「面白そうですね。坂本龍馬なら、やる気になるな」
Nさん「普段から坂本龍馬が一緒にいてくれると感じるのはもちろん、自分自身がどんどん坂本龍馬のようになっていくというイメージを持ち続けるんだ。I君ならできるよ」
Iさん「坂本龍馬のようにお得意さんに食い込んでいくのが、何かイメージできてきました。」

 

Nさんは、Iさんかダメ新人だった頃からずっと面倒をみてきました。しかし、Iさんのダメな状態には注目せず、Iさんの可能性とその存在の素晴らしさを承認し続けてきました。

その結果、2年目にはIさんは、同期の中でも「しっかりした男」と認められる存在にまで成長しました。
Iさんの成長の第2段階として、Nさんがトライしたのが、この「モデリング」です。

これには、取り組みへの相手の同意が必要ですので、お互いの関係性がしっかり出来てからのアプローチとなります。

そして、そのモデルとする人物が相手に達しているかどうかをしっかり見極める必要があり、普段からその人をよく見てあげていることも肝心です。

これらをしっかり整えて、一緒に歩めば、目の前の相手は、さらなる変化を見せていくでしょう。
あなたの貢献度合いも、さらにレベルアップしていくのです。

 

モデリングとは?


モデリングは、メンタルコーチングのセッションなどでもよく行うものですが、スポーツの世界などでも多く取り入れられています。

テニスエリートを養成するあるアメリカのテニススクールなどでは、まずスクールに入ってきた子どもに一通り打たせ、その子の個性を観察します。それを観察したコーチ陣の協議の結果、モデルとなる選手を決めると言います。

例えば、モデルがピート・サンプラスと決まったら、その子に「お前はピート・サンプラスだ!」と伝え、合意を得たら、サンプラスのビデオをすっと見せ続けるそうです。
そして、サンプラスになりきった状態で練習をし、サンプラスになりきった状態で試合をすることを繰り返すそうです。

頭の中がサンプラスの映像とイメージでいっぱいなので、不思議とフォームやプレイスタイルも似てくるそうです。

そして、何よりも大きいのは、自信を持ってプレイすること。
試合中ピンチを迎えても、

「サンプラスだったら、ここでどう考える?」
「サンプラスだったら、ここでどう行動する?」

のコーチの質問に応えて、自分で考え、 自分で試合を組み立てるようになると言います。

モデリングは、個々の個性と自主性を育てる1つの優れた方法といえます。

 

モデリングでセルフメンターを宿す



指導者が居ないと頑張れない、というのは他律的な状態です。
真に成長を求めるなら、内なる声に導かれることが必要です。
この内なる声の主がセルフメンターで、この声に従いながら、自律的な行動を選び取るようになれるのです。

このモデリングを経て、セルフコーチングができるようになれば、新人教育は、完了したといえるでしょう。

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