FOOD

発酵食品なのか、腐敗しているのか、そこが問題です。 酸っぱいトウモロコシの粥「マヘウ」。

12年間にわたり世界中をめぐっている著者が、現地の健康&食べもの情報を毎週お届けします。

 

ボツワナに逗留して、早ひと月。

スーパーマーケットに並んでいる、以前から気になっていた食品を購入しました。

ヨーグルトか牛乳にしか見えないのですが、トウモロコシの粥を発酵させたものです。

南部アフリカに古くから伝わる「マヘウ」です。

 

「よく振るように」と注意書きがあります。

心配性なものですから、振りすぎかなってくらい振ってから、注ぎました。やや、とろ~り感。

振りすぎたせいか、少し泡立っています。

 

牛乳ほどサラサラ感はなく、ヨーグルトほどこってり感もありません。

恐る恐る舐めるように飲んでみると、どことなく田舎臭いカルピス臭。

豆乳のような多少ざらざらした舌触り。軽い酸味があります。

鈍感力の優れた妻Yukoによると、

「甘味はないね」

とのことですが、拙者は多感なものですから、

「ちょっと甘いね」となりまして、つまり微糖です。

舌の上で転がしたり、軽くうがいをしたり。雑味があるヨーグルトって感じです。

 

キャッチフレーズは、飲み干して立ち上がれ! おっさん用の精力剤みたい。

 

マヘウは乳酸発酵しているので、ビタミンとミネラルが豊富です。

飲み干したYukoがいそいそとトイレへ向かったところをみると、便秘に効果があるのかもしれませんが、トウモロコシを腐らせたアフリカの酸っぱいものを飲むという心の緊張が反比例して、腸を緩めた可能性もあります。

ということは、ここ一番の便秘のときは、ぜんぜん食べたくない初めての食べ物が効くということかもしれません。

しかもちょっとこれはないんじゃないってくらいグロい方が効果的かもしれず、とするとカンボジアのゴキブリの唐揚げみたいのはどうですかね。

あれは吐きそうなくらい効きそうです。

下痢ピーソムリエとしては、ペルーのネズミ「クイ」の丸焼きも推薦いたします。

脳天からお股まで、完全にまっぷたつに割った姿焼き。左右にわかれた鼻と口。手足の指の一本一本まで残した、生々しい焼き具合。噛んでも噛んでも噛みきれない、ゴムのような肉。催すこと間違いなしです。

あ、そうそう、フィリピンにも強烈なものがひとつありました。

孵化しかけたヒヨコの茹で卵「バロット」。まさに腐ったような佇まい。この原稿を書いているだけで、トイレに行きたくなってきました。

 

ひと昔前のボツワナ人は各家庭でマヘウを作っていたものですが、今ではスーパーマーケットで購入します。日本の漬物みたいなものです。

マヘウの賞味期限は、1週間前後。発酵しすぎると酸っぱくなります。

韓国の発酵食品キムチも、酸っぱくなるまで1週間ぐらいじゃなかったですかね?

メキシコの宿で一緒になった韓国人たちは、よく部屋の隅にキムチを放置して、酸っぱくしてからチャーハンを作ってました。

酸っぱくなったのは発酵しすぎたからで、腐ったわけではありません。

口の悪い関西人は納豆のことを大豆の腐ったものと言ったりするもので、そんな言い草は茨城県民に失礼な気がしますが、あながち「腐った」も間違いじゃありません。

「発酵」と「腐敗」は、同じメカニズムです。

微生物が、食べ物を分解しているだけ。

分解されたものが、美味しければ「発酵」。

臭くてとても食べれたもんじゃないと思えば、「腐敗」。

美味そうに見えたけど食べてお腹を壊したら「腐敗」ですが、お腹が壊れなくなるまで食べ続けたら「発酵」の勝利です。

つまり嗜好の問題なので、納豆もクサヤも鮒寿司(ふなずし)も、欧米人からしたら「腐る」だったりします。

 

モンゴルの大草原のゲルにお邪魔したとき、正体不明の酸っぱい葉っぱをご馳走してもらいました。

うわっ酸っぺー、腐ってんじゃんって、文句を言いながら食べたものです、日本語で。

ごめんなさい。

その後、お腹を下さなかったので、「発酵」だったのですね。

 

モンゴルの伝統的な移動式住居「ゲル」。彼ら遊牧民の食事は、ほとんどが肉。野菜なんて滅多に食べませんが、横綱級に健康です。

 

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)
デザイナー。1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。出版社勤務、デザイン事務所、編集プロダクションなど複数の会社経営の後、2005年4月より建築家の妻と夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。世界中の生の健康トレンド情報をビジネスライフで連載中。

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